大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

札幌地方裁判所 平成8年(ワ)1885号 判決

呼称

原告

氏名又は名称

遠藤健司

住所又は居所

北海道厚田郡厚田村大字厚田村字川上二九八番地五七

呼称

原告

氏名又は名称

株式会社遠藤企画

住所又は居所

北海道厚田郡厚田村大字厚田村字川上二九八番地五七

代理人弁護士

荒谷一衞

呼称

被告

氏名又は名称

株式会社ほくさつ

住所又は居所

北海道江別市角山七一番地二七

代理人弁護士

小寺正史

主文

一  原告らの請求をいずれも棄却する。

二  訴訟費用は原告らの負担とする。

事実及び理由

第一  原告らの請求

一  被告は、別紙物件目録二記載のトレーラを製造、販売、頒布してはならない。

二  被告は、前項のトレーラ(半製品を含む)を廃棄し、同トレーラを製造した一切の設備等を除去せよ。

三  被告は、原告遠藤健司に対し、金一〇三九万八四四二円及びこれに対する平成八年八月三〇日(訴状送達の日の翌日)から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

四  被告は、原告遠藤企画に対し、金一七二万三〇三二円及びこれに対する平成八年八月三〇日(訴状送達の日の翌日)から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

五  被告は、原告遠藤企画に対し、平成八年八月一日から第一頃のトレーラの製造、販売、頒布の停止及び第二項のその廃棄、設備等の除去のいずれもが完結するまで、毎月末日限り、一か月金三六万円の割合による金員を支払え。

第二  事案の概要

本件は、農機運搬用の荷台傾斜式(ダンプ式)牽引型トレーラについて、実用新案権を有する原告遠藤健司及びその考案に基づくトレーラを製造、販売している原告遠藤企画が、同種のトレーラを製造、販売している被告に対し、被告のトレーラーはその構成において実用新案権を侵害すると、ともに、その形態において原告らのトレーラと同一又は類似し、原告らの商品又は営業と混同を生じさせていると主張して、実用新案法、不正競争防止法に基づき、被告のトレーラの製造、販売、頒布の差止め及び損害賠償を請求した事案である。

一  前提となる事実(証拠を掲げたもの以外は争いがない)

1  原告遠藤健司は、次の実用新案権(本件実用新案権)を有している(甲七、九、二〇)。

(一) 登録番号 実用新案登録第二〇二七九四〇号

(二) 考案の名称 牽引型トレーラ

(三) 出願日 昭和六三年六月二七日(実願昭六三―八五四二八)

(四) 公告日 平成五年一〇月二八日(出願公告平五―四二九二〇)

(五) 登録日 平成六年八月四日

2  本件実用新案権に係る考案(本件考案)の実用新案登録請求の範囲は、次のとおりである(添付図面参照)。

(一) 請求項1 トレーラボデー本体1の下面には積載物に合った車輪3が配設され、トレーラボデー本体1の前方に配されたヒッチ側ボデー本体2の後端2Aは、トレーラボデー本体1における車輪より前方位置でピン4で連結され、トレーラボデー本体1の後端左右に起伏自在にミニブリッジ5が連結され、ヒッチ側ボデー本体2の先端上面にトラクタヒッチ受部6が固着され、ヒッチ側ボデー本体2の先端下面に起伏自在にジャッキ台7が設けられ、トレーラボデー本体1の正面中央部と、ヒッチ側ボデー本体2における上面中央部との間に、コントロールバルブ8Cを有する油圧ホイスト8が張設され、トレーラボデー本体1の正面と、ピッチ側ボデー本体2の正面との間には安全レバーロック部9が設けられたものにおいて、安全レバーロック部9は、トレーラボデー本体1の正面左右にピンで左右方向に揺動自在に取り付けたフック9Aと、ヒッチ側ボデー本体2の正面左右に突設したフック9Aが係脱するピン9Bとから構成されていることを特徴とする牽引型トレーラ。

(二) 請求項2 ミニブリッジ5は、平面平行な枠5Aの上面に適数個の波型材5Bが添着され、かつ、この枠5Aの根元はトレーラボデー本体1の後端に添設した上向きコ字型のブラケット5Cに、ミニブリッジピン5Dで枢着して、倒伏時にはミニブリッジ5の下面がブラケット5の下面部に当接し、所定角度で斜めに支持されるよう構成され、ボデ床板1Aの後端には丸棒体5Gが添着されている請求項1記載の牽引型トレーラ。

(三) 請求項3 トラクタヒッチ受部6は、先端にピン受6A1を、また、後端と内方に突縁6A2を有するトラクタヒッチ受体6Aと、このトラクタヒッチ受体6Aを支持する支持部6Bとから構成され、支持部6Bはトラクタヒッチ受体6Aにおける両突縁6A2の間を挟持するよう構成した正面下向きコ字型の枠6B1をヒッチ側ボデー本体2の先端上面に固着して構成するとともに、この枠6B1にはトラクタヒッチ受体6Aを下方から受けるボルト6B2を貫入する調節穴が適数段開設されている請求項1あるいは請求項2記載の牽引型トレーラ。

3  原告遠藤健司は、本件実用新案権の取得以前から、別紙物件目録一記載のトレーラ(原告らトレーラ)を遠藤企画の名称で製造、販売し、平成八年三月一一日、原告遠藤企画を設立して、これに対し、原告遠藤健司の営業をすべて譲渡した(甲一の1・2、二一、弁論の全趣旨)。

4  被告は、別紙物件目録二記載のトレーラ(被告トレーラ)を製造し、販売、頒布している。

二  争点

1  実用新案権の侵害

(原告らの主張)

(一) 被告トレーラは牽引型トレーラで、トレーラボデー本体の下面に積載物に合った車輪が配設され、ヒッチ側ボデー本体の後端は、車輪より前方位置でトレーラボデー本体に連結されている。トレーラボデー本体の後端には、左右に起伏自在にミニブリッジはないものの、後端自体がミニブリッジの役割を果たしている。ヒッチ側ボデー本体の先端上面にトラクタヒッチ受部が固着され、ヒッチ側ボデー本体の先端下面に起伏自在にジャッキ台が設けられており、トレーラボデー本体とヒッチ側ボデー本体との間には、コントロールバルブを有する油圧ホイストが張設され、トレーラボデー本体をヒッチ側ボデー本体に固定し、又は固定を解除するための安全レバーロック部が設けられている。

(二) 本件考案の核心は、コントロールバルブを操作してオイルの流量を調整することにより、トレーラボデー本体の昇降速度を適宜調整することができる油圧ホイストを設置したことにある。被告トレーラにも、ピストンの位置は上下が逆になっているが、同じ構造の油圧ホイストが張設されている。

(三) 被告トレーラの安全レバーロック部は、トレーラボデー本体の正面左右にピンで左右方向に揺動自在に取り付けたフックと、ヒッチ側ボデー本体の正面左右に突設したピンとから構成されている。フックが係脱するピンの位置がヒッチ側ボデー本体のフレームの外側にあるほかは、本件考案と同じ構造である。

(四) このように、被告トレーラの構成は、本件考案と構成あるいは効果が同一で均等であるから、被告トレーラの製造、販売、頒布は、本件実用新案権を侵害している。

(被告の反論)

(一) 被告トレーラは、本件考案とは次の点で構成が異なり、本件考案の技術的範囲に属さない。

トレーラボデー本体の後端に、ミニブリッジは存在しない。トラクタヒッチ受部は、ヒッチ側ボデー先端上面ではなく、ヒッチ側ボデー本体の延長線上に突設されており、高低調節機能を行う調節穴はない。ジャッキ台は、ヒッチ側ボデー本体の先端中央部に立設されている。安全レバーロック部の構造は、以前は本件考案と同じであったが、現在では、フックを左右方向ではなく、前後方向に揺動させてピンに留める形式になっている。

(二) 本件考案の登録請求の範囲を構成する各部分は、いずれも公知のもので新規性がない。荷台傾斜式トレーラにおいて、荷台の緩衝装置として油圧ホイストを設置することも、公知の技術である。その各部分を組み合わせたことについても、この程度の組み合わせでは新規性は認められるべきではない。

2  不正競争防止法違反

(原告らの主張)

(一) 原告らトレーラは、ボデー全体を黄色ペイントで塗装し、商品名、型式、遠藤企画のマーク、遠藤企画の名称などを印刷したステッカーを、トレーラボデー本体の正面左側とトラクタヒッチ受部に張り付けて、その商品表示をしている。

原告遠藤健司は、昭和六三年ころから、近隣の市町村の農家に原告らトレーラを販売したところ、これに対する農家の評価は非常に高く、その製造が発注に追い付かないほどであった。原告遠藤健司は、平成元年から、日本農業新聞、農経しんぽうなどに一年に数回あるいは毎月、原告らトレーラの宣伝広告を掲載し、農経しんぽうには「遠藤企画 アツタ式トレーラ普及 コンバイン30秒で積み降し」との見出しで、原告遠藤健司の顔写真とトレーラの写真入りの記事が掲載されたこともあって、ホクトヤンマー株式会社ほか十数社との間で原告らトレーラについて相当数の売買取引をしていた。

したがって、原告らトレーラの商品表示は、広く認識され周知性を有するに至っている。

(二) 被告は、平成五年一一月ころから、原告らトレーラと同一又は類似する被告トレーラを製造、販売している。被告トレーラは、原告らトレーラと同一又は類似した商品表示を使用した商品として、原告らの商品又は営業と誤認混同を生じさせている。

(被告の反論)

被告トレーラは、ボデー全体を赤色のペイントで塗装し、商品表示にはステッカーを使用せず、被告の会社名をトレーラー自体に記載している。

したがって、被告トレーラを製造、販売することが、原告らの商品や営業であるとの誤認混同を生じさせる可能性はない。

3  原告らの損害

(原告らの主張)

原告らは、被告の行為によって、次のとおり損害を被った。

(一) 被告は、平成五年一一月から平成六年一〇月までの一年間に、被告トレーラの製造、販売により、四四一万円の営業利益を得ている。

(二) したがって、その反面において、原告遠藤健司は、平成五年一一月一日から平成八年三月一〇日までの二年一三一日問に、合計一〇三九万八四四二円の損害を被り、原告遠藤企画は、平成八年三月一一日から同年七月三一日までの一四三日間に、合計一七二万三〇三二円の損害を被ったことになる。

(三) 原告遠藤企画は、平成八年八月一日以降も、一か月当たり少なくとも三六万円の営業利益相当額の損害を被る。

第三  争点に対する判断

一  実用新案権の侵害について(争点1)

1  被告トレーラには、トレーラボデー本体の後端にミニブリッジは存在しないから(争いがない)、被告トレーラは、その点において本件考案の構成要件を充足しない。

原告らは、 トレーラボデー本体の後端自体が本件考案のミニブリッジの役割を果たすと主張するが、この主張が本件実用新案権の侵害とどのような関係にあるのかは、必ずしも明らかでない。仮にこれが本件考案の構成要件と均等であるとの主張であるとしても、どのような作用効果をもって、被告トレーラのトレーラボデー本体の後端が本件考案のミニブリッジの役割を果たすのかは、主張上も証拠上も明らかでない。

2  したがって、その他の構成要件について検討するまでもなく、被告トレーラが本件考案の技術的範囲に属するものと認めるには足りない。

二  不正競争防止法違反について(争点2)

1  証拠(甲一の1・2、三の1・2、四の1・2、一八の4・9・13、一九の1・3、二四、二五)によれば、原告らトレーラはボデー全体が黄色に塗装され、トレーラボデー本体の正面左側とトラクタヒッチ受部に、黒色と濃いグレーを組み合わせて「アツタ式トレーラーT3000型 遠藤企画」などと商品表示をしたステッカーが張り付けられているのに対し、被告トレーラはボデー全体が赤色に塗装され、ヒッチ側ボデー本体の両側面に白文字で大きく「HOKUSATU」と記載して商品表示をしていることが認められる。

2  この事実によれば、原告らトレーラの商品表示と被告トレーラの商品表示とはまったく異なるものであり、被告トレーラの製造、販売が、原告らの商品又は営業との混同を生じさせることはないということができる。

第四  結論

以上のとおり、被告に本件実用新案権の侵害、不正競争防止法違反を認めることはできないから、その余の点について判断するまでもなく、原告らの請求はいずれも理由がない。

(裁判長裁判官 片山良廣 裁判官 山崎秀尚 裁判官 金谷稔美)

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例